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 そう言われて、ようやく相手がマスコミ関係者である可能性に美幸は思い至った。 (……でも、どう考えてもブンヤには見えないんだけど……) 「もしかして、刑事さんは犯人は犯行現場に必ず戻って来ると言う俗説を信じてらっしゃるんですか?こんな風に行きずりに無差別としか思えない犯行を繰り返す相手には、そんな通説は通じないと俺は思いますけどね」  その落ち着いた声音で淡々と語る青年に、美幸は内心で素人が知ったようなことをと秀麗な顔を顰めた。  しかし、そんな美幸の内心を察したのか、相手は苦笑すると優雅な仕草でスーツの懐から名刺入れを取り出し、その中から名刺を一枚、美幸の目の前へと差し出して寄越したのだった。 「犯罪心理学者……?」  名刺に記された肩書きを見て、美幸は大きく目を瞠った。  目の前の青年は、マスコミ関係者にも見えなかったが、学者と呼ばれる人種にもあまり見えなかった。 「ええ、里見と言います。お疑いなら、その名刺にある大学の方へ問い合わせて頂いても結構ですよ」  ニコリと、同性である美幸でさえも思わず見惚れてしまうような魅力的な笑顔を見せると、里見は彼の耳元でゆっくりと囁いた。 「おそらく、これからも顔を合わせることになるでしょうから、以後お見知りおきを、桐野美幸さん」     
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