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 ジャック・ザ・リパーは、十九世紀末の倫敦を震撼させた、有名な連続婦女殺人犯の名である。  日本では、『切り裂きジャック』の名で呼ばれることの方が多いかもしれない。  その殺人の手口のあまりの残虐さと、七人目の被害者を殺した後に、忽然とその姿を消し、結局は事件を迷宮入りにさせたミステリアスさで、近年になっても『彼』のことを題材にした出版物は後を絶たない。  そんな犯罪史上に残る猟奇的殺人者と重ね合わせて、マスコミが今回の連続殺人の犯人につけた名前が、先の友人の台詞の中にあった『現代の東京に云々』なのである。 「若い女ばかり狙った猟奇殺人か……。本気でゾッとしないな」  美幸の傍らでブツブツと毒突きながら血で汚された現場を検証している友人はと言えば、スラリとした長身に茶パツとロン毛と言う、一見すると刑事にはまったく見えない外見をしている。  名前は葛城草介と言って、美幸にとっては現在彼が勤務する警視庁捜査一課の同僚である以前に、大学時代からの親友でもある男だった。 「……また、今回も白い薔薇の花が置いてある……」  友人の言葉には直接答えずに、美幸はぼんやりとした口調で、既に赤からどす黒く変色した血の海の真ん中に置かれた、清楚な白い薔薇の花を眺めていた。     
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