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どうやら美幸と同じようなことを内心で考えていたらしい草介に、苦笑しながら「分からないだろう。もしかするとサーカスから逃げ出したクマが犯人かもしれない」と、勿論本気であるはずもない推理を披露する。
「クマが犯人なら、刃物で頸動脈を切って獲物の血をすするよりも、もっと簡単な方法で相手に致命傷を与えているさ」
美幸の言葉に男らしく整った顔を顰めながら、草介は軽く肩をすくめて見せた。
「……血か」
「ああ、血だ。この様子じゃ、今回もそうだろうよ」
自分の足下に横たわる、青いビニールシートに包まれた遺体を見下ろす。
シートの隙間から僅かに覗く被害者の右手は、まるで若い女性のものとは思えない程、何故か茶色く変色してカラカラに乾いていた。
これは、まだマスコミにも公表されていない事実だったが、これまでの事件の被害者達には頸動脈と腹部を鋭い刃物で切り裂かれている以外にも、実はもう一つ大きな共通点があった。
それが何かと言えば、死んだ彼女達の体内からは、ほとんど全ての血液が抜き取られていたのである。
確かに、遺体の周囲は傷口から溢れ出した大量の血液で汚れていたが、体内の全ての血が自然に外へ流れ出すようなことは絶対にありえない。
これは、明らかに人為的な仕業としか思えなかった。
「まさか、犯人はクマじゃないだろうけど、だからと言って、普通の人間でもないような気が俺にはするよ」
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