ミステリ少女の考察

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 ふう――わたしはひとり、少々アンニュイな吐息を吐き出しました。  外は春の陽気に溢れているようですが、この部屋の窓にはブラインドが掛かっているため、そのようすはわかりません。部屋のいたるところに安置されている書物を、天敵の日光から守らねばならないので、仕方のないことです。  と、あれあれ――? あらいやだ、いつから聞いていらしたんですか? お声をかけてくださればよかったのに――。  どうも、こんにちは。  八乙女雪香(やおとめきよか)でございます。名前の読みは『きよか』で、ゆきか、ではありません。『雪香』と書いて『きよか』と読みます。お間違えのないよう。  翆照館(すいしょうかん)大学一回生、推理小説研究部――略して『推研部』に所属しております。まさにこの部屋こそ、その推研部部室なのであります。  不意に、きいと音をたてて、入口の古い扉が開けられました。歴史ある建物なので、立て付けが悪くなっているのです。  上下黒スーツ、髪の毛を整髪料で綺麗に整え、知的かつ古風な雰囲気の大きな黒眼鏡をかけた男性が入って参りました。推研部部長の野辺太郎(のべたろう)氏であります。
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