ミステリ少女の考察

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「やあやあ、雪香くん。なんだかサマになっているね」  にかっ、と笑顔を作って、彼が近づいてきました。 「ロンドンの名探偵は安楽椅子が似合うけど、君の場合はその重役椅子が似合っているね」 「光栄です、のべたろ部長」  わたしは今、部室の一番奥に陣取る、高級そうな椅子に腰掛けています。背もたれは荷重に比例して自動で調節されますし、肘置きのクッション性も抜群です。  椅子の前には、同じく豪華な木製テーブルがあります。聞いた話によると、フランス製だとかイタリア製だとか、諸説あるようです。 「その茶色のベレー帽も、往年の名探偵を思わせる感じで。あとそのマントのような――ポンチョというんだっけかな? なかなかお洒落ではないかな」  どうしたのでしょう? こんなに褒められるだなんて。格好よりも、ミステリのお話をするほうが、わたしとしては楽しいのですが。 「でもひとつだけ、君にいいたいことがあるよ、雪香くん」 「はい、なんでしょう?」 「その重役椅子は……本来部長である僕の席なんだがねっ」  人差し指をわたしのほうに突き出して、高らかに宣言をしました。まるで名探偵が、犯人をいい当てるときのようです。  あ、そうそう名探偵といえば――すっかりと忘れていました。
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