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あなたから手紙が来たと思ったら、随分仰々しい封筒に入っていたもので覚悟して開けてみれば内容はあっさりしていたから、拍子抜けしちゃったわ。
出来れば私もあっさりとした手紙を書こうと思うのだけれどそうもいかないことは、察しの良いあなたのことだから気付いているでしょう。
話しそびれてしまったけれど、私の住んでいた町はもうどこにもないの。あなたと青春を共にしたここ、大阪だけ。
あなたから逃げるように島根県に引っ越したのはあの出雲大社があったから。神様というものを今さらながらに信じてみたくなってね。そりゃすがりたくもなるわよ。なんだかんだ言って、抱かれてしまうのは私だってそれを望んでいたからだもの。
最後に会った日、既に荷造りは終わっていたのよ。
すごすごとあなたから逃げた先で、妊娠が発覚した。神様はきっと「大阪に戻れ」と言っていたに違いありません。だけれど私はフラれた身だったから何も言うことが出来なかった。
子供を堕ろして、自分の失意に乗じて再びあなたに縋ってしまいそうになって、私はまた住所を変えることにしたの。それがいけなかった。
3月11日、東日本大震災。私の住んでいた岩手県の安アパートは跡形もなく流されて行ってしまった。あなたから離れれば離れるほど、私は多くの死と向き合うことになった。
大いなる死と、矮小な生。
思えば青春なんて、矮小な生の中のさらに小さな存在だったというのに、あなたがいかに大罪人であったかのように「青春泥棒」なんて罪状を突きつけてしまったことは私のほうこそ浅ましかったのだと思ってしまうの。
ちょうどあなたと会わなくなってから1年が過ぎた今、こうして再会してしまったことは愚かしくも僥倖だった。今になってやっと、私の罪を分け合えて気持ちが随分(本当はいけないことだけれど)楽になったわ。
こっちでの仕事が見つかれば、きっとまたあの店で飲みましょうね。ただ、この体には指一本触れさせないけれど!
追伸、私の住んでいた島根県の町について書くのを忘れていたわ。あの「出雲市」に吸収合併されたのよ。
平成23年10月20日 桜井めぐみ
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