1人が本棚に入れています
本棚に追加
君のほうこそ、やけに洒落た便箋を送って来たじゃないか。僕なんかにこんな気配り必要ないよ。
手紙を読んでから僕なりに色々考えたんだ。いろいろといっても、君にとっては些末なことだからかいつまんで書こうと思う。
君が自らをも浅ましいと表現したことについて、君は深淵を覗き込みすぎたようだ。そしてそれは僕の所為だ。
水面近く、浅く明るいところで生きている人は皆、捕食される危険性を孕んでいる。それを良しとして、一時の幸せを享受して円満に人生を終えるのだろう。僕もその一人だった。
深淵が如何なところか僕には分かるはずもない。だけれど、君にはそれが見えている。
僕は最低な人間だ。君をフッて、性欲のはけ口にして、子供を堕ろさせて、僻地に君を追い込んで、そんな僕に、今でも縋ってくれる君はもう僕の知っている君じゃないんだ。
深淵に居ながらにして、高尚で尊ぶべきもの。水面を揺蕩いながらのらりくらり生きている忌むべき存在。
どうして僕は、君にしてしまった多くの【 】を詫びようと思ったのか。謝っても許されないことをしてしまった。訂正しよう、僕が君をフッたのはただの気迷いだったかもしれない。性懲りもなく、どうしようもなく、また君に惚れている自分が情けない。
君は、いい女だ。だから、これ以上僕なんかに構う必要は無【 】。
平成【 】3年12月1日 雪田大地
******
最初のコメントを投稿しよう!