16人が本棚に入れています
本棚に追加
息子が目を覚まさなくなってから、もう五年になる。
本来なら、この春、高校生になっていたはずなのに、息子が目覚めることは五年経ってもかなわない。
だが、不思議なのだ。
息子は病院で寝たきりなのだが動かない訳ではない。
普通に寝返りもうつし、寝言も言う。
その寝言は、まさに誰かと話しているような。
高校生にもなるなら、そんなこともあるだろうと思えるような会話を切り取ったような寝言。
そう。まさに彼女と話しているような、そんな寝言なのだ。
「悠平は、夢の中で彼女を作ったのかな?」
目覚めない息子を前に妻は、そんなことを笑いながら呟く。
例え、目を覚まさなくとも大事な息子であるから、そう言えるのだろう。
私は時々、正直、気味悪く感じている。
寝たきりの息子が、たまに見せる笑顔。
その顔が何かを企んでいるような、そんな策士の顔に見えるのだ。
考え過ぎだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!