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だが、酒に酔って矩を強引に誘ったのが自分なのだとしたら、記憶が抜けていようがどうしようが悪いのは全部自分ということになる。
これはもう謝るしか方法はないのだろうと、瑛海は矩から気まずそうに視線を逸らす。
「──スミマセン……」
何秒か沈黙があって、俯いていた矩はポソリと口を開いた。
「──俺……お風呂入ってくる……」
そう言って、居た堪れない空気から逃げ去るように、ベッドからするりと抜け出した。
一人部屋に残された瑛海は、その隙にばっくれてしまおうかとも思ったが、自分が誰なのかを知っている相手から逃げたところで意味がないなと思い直した。
せめて待つ間に服だけでも着ようと、ベッドの下に転がっている自分の下着やらシャツやらを掻き集める。伸ばした手に不思議な感触のものが触れた。
「──かつら?」
瑛海が拾い上げたのは女用のウィッグだった。それは茶髪のセミロングほどのもので、その色味と雰囲気にどこか既視感を覚えた。
体を乗り出して周りを見回すと、他に落ちているのは黒レースのショーツにブラジャー、ひらひらしたミニスカートにオフショルダーのニット……どれも全て女物だ。
「知ってるぞ……この服……。昨日打ち上げにいたファンの女だ……」
ライブの後、フロアで開いた昨夜の打ち上げの情景が、ようやく瑛海の脳裏に戻ってくる。
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