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思い当たったのか、瑛海は頭の中で記憶が鮮明に弾け、目を見開いた。
──行った……。前にライブハウスのスタッフに二次会で連れて行かれた。瑛海はすでにベロベロの状態で……。確かに、好みの子が一人居た……。
「あの時の……子が……お前……?」
「今度ライブやるから見においでって……チケットくれたから行ったのに……。実際見たら、すごい格好良くて……俺もいいなって……思っ……」
女メンタルみたいに矩はとうとう泣き出した。
ペラペラの胸で、シクシクと顔に手を当て泣き出した。
弱々しく泣いている姿を見ていると、瑛海の胸は次第に痛みだした。
男であろうが女であろうが、矩は瑛海が原因で傷付き、泣いているのだ──。
どう対処して良いのかわからずに、瑛海はまだ少し湿ったアッシュブラウンの髪をそっと撫でた。
驚いた矩が、大きく肩を揺らして瑛海を見上げる。
目が合った矩は可愛い顔をしていた。雨に濡れた子犬みたいに、瞳を潤ませてこちらを物欲しげにジッと見つめていた。
──キスして欲しいんだと思った。
それで泣き止むならしても良いと、瑛海は矩の顎を指で軽く持ち上げ、そのまま唇を重ねようとする。
だが、すぐに頬に激痛が走りそれは未遂に終わった。
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