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「イッテェ!! なんで殴るんだよ!!」
「好きでもないのにそんな事しようとしないでよ!!」
──矩の言うことは確かに正論だったが、空気っていうものがあるじゃないですかと、瑛海はイマイチ納得がいかない顔のまま、痛む頬を抑えた。
「──もう帰れ」
それは矩が口にした言葉の中で一番強く、深く、そしてどことなく寂しげなものだった──。
「瑛海、どーしたの。顔」
その事件の二日後、スタジオでバンドのボーカルである自由に、まだ完全に腫れの引かない頬を突っ込まれた。
「──まぁ、イロイロありまして……」
「打ち上げで一緒に帰った女の子と喧嘩したの? まさか彼氏と鉢合わせとか!」
あれは女でなくて実は男だったし、いざコトに及んだ途端、俺はさっさと寝落ちしてしまったし、その男にメソメソ泣かれて、キレられて、挙げ句の果て思いっ切り殴られたんですけど──なんて、超展開過ぎて話せない──ので、
「まぁ……イロイロ……な」と瑛海は苦笑いしながらそれ以外の表現が見つからず、またも割愛した。
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