◆◇◇女

2/2
前へ
/30ページ
次へ
 立ち上がってみたものの、そこまでだった。足が固定されたように重く、呆然と立ち尽くす。  折り返し入った着信に、反応する事すら出来なかった。  ただ、まっすぐ視線を落とした先の、蛍光灯を鈍く反射させているタイルを、その目地のくすんだ部分を、焦点の合わないまま見つめていた。  肩を叩かれ、はっとする。見知った顔が、心配そうに覗き込んでいた。どうやらちゃんと来てくれたらしい。 「――が、目を覚まさなくて」  もう、息もしていなくて。  言葉にしてしまった事で、受け入れまいとしていた良くないものが、身体に染みこんでいくようだった。  ぐらりと身体が傾き、崩れ落ちる寸前で、抱きかかえられた格好になる。 「どうして、こんな事に」  ぽつりと呟いた声は力なく溶けた。  あ その問いに答えられる者は、誰一人としていなかった。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加