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立ち上がってみたものの、そこまでだった。足が固定されたように重く、呆然と立ち尽くす。
折り返し入った着信に、反応する事すら出来なかった。
ただ、まっすぐ視線を落とした先の、蛍光灯を鈍く反射させているタイルを、その目地のくすんだ部分を、焦点の合わないまま見つめていた。
肩を叩かれ、はっとする。見知った顔が、心配そうに覗き込んでいた。どうやらちゃんと来てくれたらしい。
「――が、目を覚まさなくて」
もう、息もしていなくて。
言葉にしてしまった事で、受け入れまいとしていた良くないものが、身体に染みこんでいくようだった。
ぐらりと身体が傾き、崩れ落ちる寸前で、抱きかかえられた格好になる。
「どうして、こんな事に」
ぽつりと呟いた声は力なく溶けた。
あ その問いに答えられる者は、誰一人としていなかった。
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