◇◇◆葵

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 あやせの後ろにそっと立ち、スマートフォンを取り出した。 「この子、知ってる?」  保存してあった画像を見せる。高校の制服らしい服装の少女が、柔らかに微笑んでいた。 「え、わかんない。っていうかうちの高校じゃん。懐かしい。なんであおいが知ってるの?」  こないだ知り合ったばっかりなのに。  そんな事まで話したっけ。あおいのスマートフォンをぐい、と引き寄せ、写真をアップにしたあやせが眉根を寄せた。  あやせってここの高校だったんだね、知らなかった。あおいはまた嘘をつく。 「でも、それだったら知ってるんじゃない? 私達とタメの子だし」 「えーうそ。絡みなかった子だと思う」  まさかあおいの昔の写真だったり?  実は同じ学校だったとか、凄くない?  ウケるんだけど。  手を叩いて豪快に笑う目の前の女に、「私じゃないよ」と無機質に返事をする。スマートフォンを右のポケットに落とした。 「昨日マサキくんにも聞いてみたんだよね」 「そうなの? あいつ、高校は別だしなおさら知らなかったんじゃない?」  電気ケトルから噴き出した湯気が、会話に割って入った。「あ、沸いたね」身を乗り出しかけていたあやせが、再び背中を向けて、戸棚からカップを取り出しにかかる。 「ちなみになんて言ってた?」  お茶いれたら電話してみようかな。  弾む声に、「多分まだ寝てると思う」と答えた。しばらく起きないかも、と付け加える。 「とりあえず、あやせは知らない子なんだね」 「うん、全然わかんない」  やっぱり駄目か。  あおいはぽつりと呟き、鞄に手を入れた。小ぶりの、しかし、肉厚のナイフを取り出し、鞘から引き抜く。 「覚えてないんじゃしょうがないね」  それなら、後はいつも通りやるだけだ。  鼻歌でも歌い出しそうな、浮かれた背中に一歩近づく。
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