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柴崎あおいが目を開けると、明度を落とした暖色のライトが、ぼんやりと浮かんで見えた。
ん、と喉から小さく声を漏らして、のびをしてみる。身体はどこも痛くないし、調子も良さそうだ。
ごろりと右に身体を傾けた。薄くもやのかかっていた脳みそに、急速に血液が流れ込んでくる。
栗色の瞳をぱちぱちと瞬かせるが、映る景色が変わるはずもない。
隣には男が転がっていた。
タオルケットがかかっているので、下はわからないが、少なくとも上半身は裸だ。
「嘘でしょ」
ぐい、と身を起こして、自身の格好を確かめた。シャツを着て、パンツも穿いている。顔を上げると、クリーム色のカーディガンと黒い鞄が、床に散らばっているのが見えた。
「一応、セーフ?」
左右に身体を捻って、部屋全体を見渡す。
ダークブラウンのカーテン。小さめの本棚。ステッカーがべたべた貼られたノートPCと、不釣り合いに大きなスピーカー。新しくはなさそうなテーブルと冷蔵庫。物が少ない訳ではないのに、殺風景な印象を受けた。
タオルケットを撥ね除け、よたよたと自らの荷物を回収に向かう。カーディガンを羽織り、鞄を手繰り寄せた。
そっと持ち上げた鞄の口は開いていて、中で何かが明滅していた。何か、などとぼかしている場合ではない。スマートフォンが、最低でも一件は、着信があった事を知らせているのだ。
おそるおそる、ロックを解除して画面を切り替える。
「やっぱりアウトかも」
履歴には予想通りの名前が表示されていた。取り出したそれをパンツのポケットに押し込み、玄関へ向かう。男には一瞥もくれず、白いスニーカーに足を入れると、重たいドアを押した。
部屋の主のかわりに、くたびれた冷蔵庫がぶうんと低い声を漏らす。
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