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「そういう業者があるらしいの」
「業者って、そんなもの」
「会ってくるから、明日」
「悪い冗談はやめてくれ」
本当よ、と笑顔を作ろうとした。
男の顔を見れば、それが上手くいかなかった事は一目瞭然だった。場を沈黙が支配したのを確認して、一枚の紙を取り出す。
「サインして。出来れば、この事は黙っていて」
「離婚届って……本気でそんな、危ない事を」
「そうね。そうしたら、通報しても構わないわ」
あなたにだけは、どちらの権利もあると思うから。消えそうな声を絞り出す。
「そうか」と紙を手に取った男は、迷わずそれを二つに引き裂いた。
「じゃあ僕も行こう」
どういう結果になるかわからないけど、気が済むまでやって、終わったら、どうするか二人で考えよう。
頭をかいて、「気持ちがわからない訳じゃないって言ったろ」と苦笑いを浮かべた男は、曖昧な表情ではあったが、それでも、頼もしく感じられた。
強く頷き、手を取る。やはり笑顔は上手くいかなかった。
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