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「お間違いはございませんか?」
契約内容をまとめたタブレットを、中年の男女に差し出す。
通常の接客業であるならば、笑顔のひとつでもサービスするものなのだろうが、なつほの表情は硬い。
血眼になってディスプレイを覗き込む二人を落ち着かせるように、「ごゆっくりご確認下さい」と言い、それとなく観察した。
不思議なクライアントだ、と思う。物凄い剣幕でやってきたかと思えば、こちらの業務内容の説明に目を丸くし、すぐに身を小さくさせた。
そして、肝心の……即ち、ターゲットに関しての話が始まると、再び鬼の形相を作るのだ。
ここにやってくるのは大抵、きな臭い事に慣れた、嫌なにおいのする連中ばかりだ。その中にあって、この男女は、その毒気の純粋さに微笑ましさすら感じさせた。
「これで、お願いします」
気力を使い果たした様子で、それでもまっすぐに答えたのは女性の方だった。隣の男性がその肩を抱き、意思が通じている事を示す。
「ご確認ありがとうございます。一点だけ、質問させて頂いても宜しいですか?」
別段、威圧感のある言い方をしたつもりは無かったが、二人揃ってびくりと肩を震わせるので、なつほは苦笑するしかない。
「こちらの条件ですが」
「ええ」
「本当にこの通りで宜しいのですか?」
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