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「あの男の部屋に一晩いたって事?」
「え、と。あはは」
「あははじゃない」
「ですよね……」
付き合いが良くて少し適当で、おまけに馬鹿正直なところは、あおいの良いところだ。
同時に、最悪の欠点とも言える。
「お昼の約束を放り出して、いちゃついてたわけ」
「待って。それは語弊がありすぎるよ。本当、そっちはすぐに終わらせるつもりで」
「そっちは、すぐに、終わらせるつもりで?」
「本当ごめんって。とにかく行くから。絶対。えーと、そう、十五時半までには」
「遅い。今日が締め切りって、わかってるよね?」
「……わかってるよ」
「じゃあ集合は十九時にして」
「え、そんな夜でいいの?」
途端に弾んだ声がして、めき、と耳元で音がする。無意識に握り締めていた四角い端末が、悲鳴をあげた音だ。
「良くない。でも、中途半端な時間だとこっちも都合が悪いの」
やり取りを終えて、腕を下ろす。
言いたい事は山ほどあったが、電話口でまくし立てても仕方ない。ふう、と息を吐いて、頭の中で予定を組み替えにかかる。
そこでもう一度、デスクが申し訳なさそうに振動を始めた。まさか、まだ何かあるわけ。自然と目つきが鋭くなった。
「こちらはこちらで……しょうがないわね」
なつほは苦い顔をする。表示された名前はあおいでは無かった。
声のトーンをよそいきに持ち上げる為に、咳払いをひとつ。
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