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「とにかくすぐ来て。そう、三丁目の総合病院」
夜じゃ遅いのよ。続けた言葉は、ほとんど叫び声に近かった。
仕事中に連絡を取るには、昼休みか、取引先に対応する振りをしなければならないのだと、わかってはいる。
それでも、すました声で並べられる丁寧語が、やけに癇に障った。状況を上手く説明出来ないでいる、自分自身に対する苛立ちが油をそそぐ。
「本当にお願い。それじゃあ、もうバスに乗るから」
ゆったりと景色が流れ、停留所で不規則に乗客が交換されていく。どうしてもっと速く進めないのかと、憤る気持ちを必死にこらえ、鞄の持ち手に力を入れてやり過ごした。
バスを降りると、五階建ての建物を見上げて、拳を握り締める。
きっと大丈夫。暗い気持ちにもう一度喝を入れ、自動ドアを押しのけた。
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