act.5 運命の輪

4/73
前へ
/358ページ
次へ
「なに、獣人の子供だと? それは妙だな。男はワハシェくんだりから、わざわざ幼子を攫(さら)ってきたというのか。だがそんな真似に、どんな理由があるというのだ」 「それを私に訊かれても困る」  頭で整理するため口にしたことを、ブランは至極真面目にそう返す。おまえに訊ねた訳ではないと言ってやりたいが、今は声を荒げては思考から情報が抜け落ちてしまう。  やれやれと頭(かぶり)を振ると、ひとつため息をつきウヴェーリが入手した情報をリークする。 「クティノスにグレースが潜伏していることは、ウヴェーリの調べで了得している。男が向かう先はクティノスで間違いない。だが連れの幼子やらが気になるな」 「そのことで、ひとつ思いあたったことがある。ティグリス、おまえの腹心、ウヴェーリだったか。確か彼は、ワハシェの出身ではなかったか」 「ああ、そうだ。それがどうした」 「これは私の見解で、しかも推測の域も出ないのだが……」  またか。  どうしてこいつは、奥歯に物が挟まったような、焦れったい言い方しかできんのだ。 「どうした、いいから早く言え」 「突拍子もない考えだ。いいか、怒らず最後まで聞けよ?」 「ああ、了解した」
/358ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1127人が本棚に入れています
本棚に追加