act.5 運命の輪

2/73
前へ
/358ページ
次へ
(ん……誰だろう、喧嘩かな)  どこからか、言い争いが聞こえ届く。せっかく気持ち良く寝ていたのに、寝所の近くで喧嘩するなんて。やるならどこかよそでして欲しい。  それにしても妙だ。ティグリスさまの寝所を騒がすなど、はたして神殿の者がするだろうか。それに、この声って確か……。 「ウヴェーリさん?」  確かに今、そばでウヴェーリさんの気配がした。それにティノさんと、もうひとり誰かいたような。  重いまぶたを持ち上げる。どうしてだろう、頭と身体が鉛のように重い。  それに、ここはどこだ。知らない天井、初めて嗅ぐ匂い。ここはティグリスさまの寝所ではない。褥の質感も違うし、ティグリスさまの匂いもしない。どういうことだ。 「あれ、僕どうしちゃたんだろ。なぜ知らない臥所で寝てるんだ」  訳が分からない。目覚めたら知らない場所にいるなんて、もののけ以上の恐怖だ。 「あの、誰か、誰かいませんか」  不安と恐怖からか声に力が入らない。さっき感じた気配も、言い争っていた声も、かき消されたように今は何もない。もしかして、僕の夢だったのだろうか……。 (そうか、夢オチか)  そういえばティノさんと、もうひとりの女性は確か、ナミルさまの妹ナメルさまだった。そしてウヴェーリさんが、ナメルさまと言い争っていて、いつも温厚な彼が怒鳴った。 「うーん、無茶苦茶だ。僕の夢っていったい」  それにしても、ここはどこだ。 「僕、僕……――ティグリスさまああ!!」
/358ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1127人が本棚に入れています
本棚に追加