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(ん……誰だろう、喧嘩かな)
どこからか、言い争いが聞こえ届く。せっかく気持ち良く寝ていたのに、寝所の近くで喧嘩するなんて。やるならどこかよそでして欲しい。
それにしても妙だ。ティグリスさまの寝所を騒がすなど、はたして神殿の者がするだろうか。それに、この声って確か……。
「ウヴェーリさん?」
確かに今、そばでウヴェーリさんの気配がした。それにティノさんと、もうひとり誰かいたような。
重いまぶたを持ち上げる。どうしてだろう、頭と身体が鉛のように重い。
それに、ここはどこだ。知らない天井、初めて嗅ぐ匂い。ここはティグリスさまの寝所ではない。褥の質感も違うし、ティグリスさまの匂いもしない。どういうことだ。
「あれ、僕どうしちゃたんだろ。なぜ知らない臥所で寝てるんだ」
訳が分からない。目覚めたら知らない場所にいるなんて、もののけ以上の恐怖だ。
「あの、誰か、誰かいませんか」
不安と恐怖からか声に力が入らない。さっき感じた気配も、言い争っていた声も、かき消されたように今は何もない。もしかして、僕の夢だったのだろうか……。
(そうか、夢オチか)
そういえばティノさんと、もうひとりの女性は確か、ナミルさまの妹ナメルさまだった。そしてウヴェーリさんが、ナメルさまと言い争っていて、いつも温厚な彼が怒鳴った。
「うーん、無茶苦茶だ。僕の夢っていったい」
それにしても、ここはどこだ。
「僕、僕……――ティグリスさまああ!!」
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