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◆ ◇ ◇
「ぶえーっくしょんっ!」
「お、どうした風邪か? ティグリス」
「あーくそ、鼻がむずむずしやがる」
旧市街を後にすると、仕入れた情報をブランと共有するため、宮殿へと急いだ。だがどうしたことか、街を出たあたりからくしゃみが止まらん。
「おおかた街の女が、おまえの噂でもしてるのではないか? 色男は大変だな」
「何を馬鹿なことを。これは埃っぽい場所に長時間いたからだ。こう見えて俺はデリケートだからな」
「まあグランディールのとなりには、広大な砂漠が存在するだけに、いくら獣王といえど鼻腔に支障をきたしても無理はない。こんな時は、鼻の利く者は不利だな」
そう笑いながら話すブランは、俺の鼻先を指でつつきながら、暗に柔(やわ)だと揶揄(からか)う。
「ええい、やめんか。そんなことよりもだ、おまえの方はどうなのだ。俺がグランディールに向かっているあいだに、間諜の行方は掴んだのだろうな」
「もちろんだとも。この私が、ティグリスだけに骨を折らせる、役立たずだとでも?」
「思うぞ」
「……。間諜、民兵バドルの動向だが、ワハシェから砂漠までのルートで、不審な親子を目撃したという情報が入った。恐らく親はバドルで間違いない。
衆人の目を憚(はばか)るために、父親にでも扮装したのだろう。だが気になるのは、連れた子供の方だ。やつが手を引いていたのは、獣人の少年だったらしい」
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