6ターン目 新人研修:最近のゾンビ傾向と対策について

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「国はなぜ、公表しない?」  俺は故郷を出て王都に来ているから、親しい人間が少ない。俺と親しいのはギルドで顔をほぼ毎日合わせているから、個人的な被害はない。が、これから、その可能性がないわけじゃない。守秘義務の件もある。気安くゾンビのことを説明するわけにもいかない。 「ことの発端は、こうだ。非番の兵士が繁華街で酔いつぶれた時、見知らぬ男に介抱されたらしい。その時は、不審にも思わなかったらしいが、人気のない方へ歩いていることと僅かな腐臭で違和感を覚えたそうだ。気付けば、そいつ以外にも不審者に囲まれている状況から剣を抜き応戦。首を刎ねたり、袈裟切りで致命傷を与えても動く姿でゾンビと分かり逃げ帰った、とまぁこんな感じでゾンビの被害報告が上がっている。剣だけじゃゾンビには勝てんからな。いい判断をしたと思うぞ、俺は。逃げた兵士の上官は、逃げたことが気に入らずに減給を言い渡したそうだがな。」 「さっきの質問の答えになってないぞ。なぜ、国は公表しないんだ?」 「それはだな。繁華街から集める税金ってのは国の収益にとって重大な収入源だからだ。一旦、公表してしまえば、客は減る。そうなっては国の財源が大幅に減り、国力が落ちてしまう。また、ゾンビと行方不明者の増大がイコールで結びついていない。新たな人攫い集団が繁華街に住み着いている可能性も捨てがたい。国も迷っているんだ。だから、俺のような学者にも生態調査の要請が入った」  うん、確かに、人の手による犯罪の線も消せないか。犯罪集団かゾンビ集団か。どっちにしてもこれから、質の悪い奴らを相手にしなくてはいけないようだ。酒を飲んで待つのも分かった。最後に質問をしておこう。命に関わる確認事項だ。 「酔いつぶれて連れ去られたら、俺はどうすればいい?そのまま死ねなんて言わないだろ?」  高額な報酬を貰ったって死んだら意味がない。当然だ。 「あぁ、それなら安心しろ。これを奥歯に詰めておけ。今は噛むなよ。貴重な薬だ」 「これは?」  丸っこい黒い玉を貰った。独特な臭い臭いもする。欠けた左下奥歯に詰めておくことにした。唾液と一緒に少し飲み込むと、味わったことのない舌がピリピリするような感覚があってゾワッとする。
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