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3ターン目 新入社員のゾンビCです
寝坊した。
全体号令をする王都郊外の墓地に行くと、すでに誰もいなかった。同期のAとBは先に行ったのだろうか。
完全な寝坊。とはいえ、うちの社は現地に直行してもいい。簡単に出社前の点検作業を終え、急いで王都の繁華街へ向かうことにした。
草木も眠る丑三つアワー。それでも、この街は眠らない。だからこそ、この時間帯でも我らニュータイプのゾンビは街へ潜入できる。人間の頃は、客としてよく訪れた街。死後もこうして街へ来れるとは。死んだ気がしない。
繁華街の中でも一番客が多い通りへ入る。酔っぱらいの多い時間。店の明かりはどこも怪しく光り、建物と建物隙間や道の端で嗚咽と共に吐しゃ物をまき散らす人間を見かける。飯の匂い、飯を作る匂い、生ごみの臭い、外は旨い匂いもゾンビにも負けじ劣らない臭いも混じりあって、ゾンビがいてもニオイで気付ける奴はいない。
俺の持ち場は、この繁華街一体。ここで歩き回って酒の飲みすぎで動きが鈍くなった人間を解放するフリして繁華街の外へ連れ出すこと。俺もこの手に引っかかってゾンビ落ちした。ゾンビ落ちした奴が、また仲間を増やすべく繁華街へ戻る。そうやって今のアンデット社は、新規ゾンビトップシェアを持つ最大手になれたそうだ。
迷惑な奴らだ。キレイなお姉さんの集団が介抱してくれるから、いい気分になって外まで付いていったらゾンビだった。ハニートラップならぬゾンビートラップにかかってしまった。そして、そのままサクッと殺され、魂が肉体から抜けないようにする呪われた指輪をつけられた。この呪われた指輪によって魂は肉体に縛られ、指輪は本人では取り外せない。呪われた装備ってのは、そういうこと。
しばらくは手頃な酔っ払いがいないか探索するか。あれは酒乱っぽいから却下。向こうは既にライバルが介抱してるから断念。ああ、いたいた。昨日の自分を見るようで切ない。ここにも自力では立てなくなった酔っ払いがいた。十代後半くらいのガキだろうか。今日は王都の成人の儀の日だから、こうして新成人が飲める量も飲み方も分からず酔い潰れるバカが必ず現れる。
成人したばかりでゾンビに目を付けられるとは、運が悪い。ついでに同じ班のAとBが道の反対側にいた。手を振って合図を送り、しばし気付くのを待つ。返事のハンドサインを確認し、コイツを介抱する。
「おい、兄ちゃん、大丈夫か?」
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