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それを見た与四郎は、
「どうした?」
「いやね、こんな朝早く来て戸を開けろと騒ぐもんだから、一体なにごとかと思えば、髪を分けてくれと言う。可笑しくってね」
「急用だと思ったかい?」
「あぁ」
「それにしては、随分と眠そうに出て来たじゃねぇか」
「まぁまぁ、寝惚けてたのさ」
言って、良吉は笑った。
「――急用、ねぇ」
与四郎はぽつりと呟いた。
「ん?」
「いや、なんでもない。で、なにからやればいい?」
「仕事を始めるにはちょっと時間が早い。与四郎、なんだってこんな朝早くに来たんだ?」
「居ても立っても居られなくてね」
「やっぱり急ぎなのか?」
「えぇと――」
言葉を選び始めた与四郎を見て、良吉は付け加えた。
「無理に言うことはないさ」
「あ、あぁ」
「とりあえず、家にあがれよ。与四郎、飯は食ったのか?」
「いや、食わずに来た。朝起きてすぐに来たんだ」
「それじゃあ嫁さんに悪いだろう。うちにあがらずに一旦、家に帰って出直してこい」
「そうか?」
「あぁ、そうしろ」
良吉は思い出したように欠伸をした。
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