第一章 夫婦

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 それを見た与四郎は、 「どうした?」 「いやね、こんな朝早く来て戸を開けろと騒ぐもんだから、一体なにごとかと思えば、髪を分けてくれと言う。可笑しくってね」 「急用だと思ったかい?」 「あぁ」 「それにしては、随分と眠そうに出て来たじゃねぇか」 「まぁまぁ、寝惚けてたのさ」  言って、良吉は笑った。 「――急用、ねぇ」  与四郎はぽつりと呟いた。 「ん?」 「いや、なんでもない。で、なにからやればいい?」 「仕事を始めるにはちょっと時間が早い。与四郎、なんだってこんな朝早くに来たんだ?」 「居ても立っても居られなくてね」 「やっぱり急ぎなのか?」 「えぇと――」  言葉を選び始めた与四郎を見て、良吉は付け加えた。 「無理に言うことはないさ」 「あ、あぁ」 「とりあえず、家にあがれよ。与四郎、飯は食ったのか?」 「いや、食わずに来た。朝起きてすぐに来たんだ」 「それじゃあ嫁さんに悪いだろう。うちにあがらずに一旦、家に帰って出直してこい」 「そうか?」 「あぁ、そうしろ」  良吉は思い出したように欠伸をした。
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