第一章 夫婦

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 吉井が亡くなって一週間が経っていた。  まともに飲み食いしていないのか、忍はひどくやつれている。髪もうまく結えていない。 「忍さん、世話をしてくれるひとは居ないの?」  やはり、忍は応えなかった。  静かに、義務的に息を吸って吐いてをくり返すばかりである。  いま、この家に居るのは忍ただ独りである。  この屋敷に出入りし、世話を焼いてくれる者は、すべて忍が帰してしまっていた。 「お沙、忍をうちで引き取ろうか」  与四郎が静かに言った。 「ええ――」  お沙は忍を見やったまま頷いた。  すると―― 「やめてちょうだい、やめて。わたしは、この家に居たい。居させておくれ――」  涙の粒をこぼしながら、忍はお沙にすがった。初めて感情を出した。  涙に濡れた忍の声は弱々しく、消えてしまいそうだった。  本来の忍は勝気な女で、陽気な性格が周囲から人気であった。  厭なことを吹き飛ばしてしまう明るさがあった。  かつての忍の髪は黒々と長く、頬は紅く健康的であった。  その女がいまでは細くやつれ、色を失い、すぐにも絶えそうである。 「お願い、ここに居させて――」  忍は肩を震わせて哭いた。
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