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吉井が亡くなって一週間が経っていた。
まともに飲み食いしていないのか、忍はひどくやつれている。髪もうまく結えていない。
「忍さん、世話をしてくれるひとは居ないの?」
やはり、忍は応えなかった。
静かに、義務的に息を吸って吐いてをくり返すばかりである。
いま、この家に居るのは忍ただ独りである。
この屋敷に出入りし、世話を焼いてくれる者は、すべて忍が帰してしまっていた。
「お沙、忍をうちで引き取ろうか」
与四郎が静かに言った。
「ええ――」
お沙は忍を見やったまま頷いた。
すると――
「やめてちょうだい、やめて。わたしは、この家に居たい。居させておくれ――」
涙の粒をこぼしながら、忍はお沙にすがった。初めて感情を出した。
涙に濡れた忍の声は弱々しく、消えてしまいそうだった。
本来の忍は勝気な女で、陽気な性格が周囲から人気であった。
厭なことを吹き飛ばしてしまう明るさがあった。
かつての忍の髪は黒々と長く、頬は紅く健康的であった。
その女がいまでは細くやつれ、色を失い、すぐにも絶えそうである。
「お願い、ここに居させて――」
忍は肩を震わせて哭いた。
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