第一章 夫婦

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    五、 「これからどうなさるのですか」  忍を独り残し、与四郎とお沙は自分たちの長屋に戻ってきた。  ふたりには、忍を引き取ることはできなかった。  あのまま放っておいたら、恐らく死んでしまう。  しかし、引き取れない――  忍は、吉井との想い出が詰まったあの家から離れたくないのだった。  忍の身のことを考え、週に何度かは様子を見にゆくことにした。  与四郎たちにも仕事はあるため、毎日は通えない。  吉井と忍の間にも、子どもはいなかった。  吉井が亡くなってしまったいま、与四郎は自分で材料を調達しなければならなくなった。  筆の材料は、すべて吉井が用意してくれていたため、他に頼るあてが無い。  与四郎の家は、商家ではない。  与四郎は困ってしまった。  材料は、すこしなら予備がある。  与四郎は、吉井がどこから材料調達してくるのかを多くは知らなかった。  商いの傍ら、材料を仕入れてくる、ということだけを聞き、与四郎は筆づくりだけをした。
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