第一章 夫婦

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「とりあえず、残された材料でつくる」  与四郎は問うてきたお沙に言う。 「それで、そのあとは――」 「どうしたものかな」  他人事のように言った。 「そのように言わないでください」 「だが、仕事はしなければならない」  言って、与四郎は作業場へ向かった。  お沙はその背へ声をかける。 「これからは、わたしが材料を調達にゆきます。吉井さまは、ただおひとりで仕事をされていたわけではないしょう。なんとか、近しい方を捜してあたってみます」 「いや、それは無理だろう」  与四郎は、背を向けたまま言った。 「なぜですか」 「吉井は、すべて自分ひとりで仕事を管理していた。たとえ親しい者であっても、調達の方法や場所は教えなかった。吉井は他の者とは違う方法をとっていたと聞く。――わたしらの筆づくりの技が先代から受け継がれてゆくように、吉井の家でも、仕事については先代から受け継いでいたのだ」 「それくらいのことは、わたしも知っています」 「どうやら、仕入れ先をまとめた帳簿はあるようだが、いま、それがどこにあるのかを知っているのは忍だけだ」 「でも、忍さんは――」 「あの様子では訊き出せまい。吉井の屋敷を勝手に探すわけにもゆかぬしな」 「では、どうすれば‥‥」 「おれたちで、なんとかするしかない」
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