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ある出会いとある別れについて
随分前の話だけれど、僕には友人がいた。
今でも友人と呼べる人はいるのだけど、それでも彼は特別で、友達だとか親友だとか、そういうカテゴリーではなく、友人だったと思う。友達という言葉ほど馴れ馴れしくなく、親友と言うほど親密さもない距離感。それが彼との関係だった。
当時彼は小説家を目指していて、安アパートにこもりひたすらに小説を書き続けていた。大学入学のために東京に出てきたらしいが、入学と同時に大学には行かなくなったらしい。
彼は大学に通い続けていると信じている親の仕送りを使って生活しながら、ただただひたすらに小説を書き続けていた。
「君はなぜそこまでして小説を書き続けているんだい?」
冷たい風が窓の隙間から流れ込むあの暗い部屋で、僕は机に向かう彼の背中にそう問うたことがある。
「分からないからさ」
彼はそう答えた。
「どういう意味だい?」
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