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雷人の静かな語り口が自然と脳内に蘇る。彼の何かを懐かしむような、夢見るような陶然とした横顔もぼんやり思い出した。そう、雷人の物語に出てくる「妖精の森」の描写はまさに私が夢で見た光景とそっくりなのだ。これだけでも彼の話が私の夢の下地になっているであろうと推測できる。
物語の筋書きはこうだ。四人の男女はお互いに同じくらい仲が良かったけれど、恋愛という意味ではヘレナはデメトリアスを、ハーミアはライサンダーを愛していた。だがうまくいかないもので、一方でデメトリアスはハーミアを、ライサンダーはヘレナを愛していたのだ。
この状況をどうしようかとハーミアとヘレナが「妖精の森」で話し合っていたところ、そこに住む妖精パックに出会う。パックは少女たちの悩みを聞くと、妖精の知恵で解決してやろうと嬉々として丸い種を一つずつ彼女らの手に落としてやった。
「いいかい、お前たちはこの種をそれぞれ家の庭に埋め水をやるんだ。三日で花が咲くから、その花びらを摘みなさい。そしてハーミアが植えた花の花びらをヘレナが、ヘレナが植えた花の花びらをハーミアが煎じて飲むんだ。そうすれば、お前たちの願いは叶うだろう」
二人は喜んで種を持ち帰り、庭に植えた。三日経ち、ヘレナの庭には赤い花が、ハーミアの庭には青い花が咲いた。パックの言葉の通り、ヘレナが青い花びらを、ハーミアが赤い花びらを煎じて飲むと、何と言うことか。ヘレナとハーミアの心が入れ替わってしまった。つまりヘレナの体の中にハーミアの心、ハーミアの体の中にヘレナの心が入ることになったのだ。
二人は初めこの魔法にびっくり仰天したが、しばらくしてパックの意図を理解した。デメトリアスがハーミアを愛しているからヘレナをハーミアに成り変わらせ、ライサンダーがヘレナを愛しているからハーミアをヘレナに成り変わらせたのだ。こうして入れ替わった二人の少女は大喜びで、いつものように「妖精の森」にデメトリアスとライサンダーを呼び出し、恋する者同士に分かれ森の中、思い思いの時間を過ごした。全ては順調で幸福だった。
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