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「そっか。「どうして殺したの」っていう言葉のことまでは気が付かなかったな」
私は春ちゃんの分析に素直に感心する。彼女は理屈を通さなければ気が済まない性格らしく、何事にも自分なりの説明付けをしようとする。
「でもそこは大した問題じゃないよ。問題なのは「どうして玲奈ちゃんのお兄さんはそんな話を玲奈ちゃんにしたのか」だ」
「……」
「私が何度か見たお兄さんの印象とこれまで聞いていた玲奈ちゃんの話を総合すると、玲奈ちゃんのお兄さんは穏やかで優しい。妹思いで、妹に対し十分な理解がある」
「……うん、合ってる」
そう冷静に分析されると気恥ずかしいが、合ってはいる。あの人は確かに妹である私をかわいがり、大切にしてくれているのだ。
「それだけにわからない。どうしてそういうお兄さんがわざわざ玲奈ちゃんが明らかに嫌がるような話をしたのか」
「そう、だね」
それは私自身疑問だ。雷人は基本的に私の言うことは余程のことがない限り聞いてくれてきた。私が嫌がるようなことをしたことも思い出す限り、無いと言って良い。他者の意見を聞くことで、今回はこれまでの兄妹の関わり合いの中では確かに異質なものだと気付く。このことが示しているのは一体何なのだろう……雷人は私に何を求めているのだろう。
「まあ、ストーリー自体に関しては結末がわかっていないとはいえ、ホラーにもファンタジーにも成り切れないお伽噺の出来損ないみたいで良いとは思わないな……六十点ってところかな」
沈み込む私に気を遣ったのか、春ちゃんは少々話をずらして必要以上に辛い批評をしてみせた。
「素人に対して厳しいね」
私はありがたくそれに乗っかって、ぎこちなく笑った。
「発想は面白いんだけど、それが活かしきれてないんだよね。シェイクスピアを使っているんだったら、もっと高度なパロディを……」
普段より口数の多い彼女に、これは気を遣っているのではなく本当に思ったことを言っているんだな、とわかった。読書家の彼女は物語のことになると饒舌だ。その中で少し気になる言葉があった。
「シェイクスピアって、あの有名な?使うってどういう……」
どういう作品を書いているかは知らないが、名前だけは聞いたことがある。あんな寝物語にわざわざ古典を引用していたのだろうか。
「ああ。『夏の夜の夢』っていう戯曲だよ」
春ちゃんは何でも無いように答える。
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