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可能な限り「怒っているんだ」と示せるよう、目を吊り上げてみせる。
「そっか、ごめんね。僕としては自信作だったんだけど、随分怖がらせたんだね」
予想していたが、雷人はすぐに謝った。あっさりとした謝罪だが、それを聞いただけでなんだかほっとして目に涙が滲んだ。
「……何であんな話したの?私がホラーとかスプラッタとか駄目なの、お兄ちゃん知ってるのに」
私が雷人を見上げ責めるようにいじけるように言うと、彼は優しく髪を撫でながら弁解する。
「お前が途中で寝ちゃったから中断したけど、あれはちゃんとハッピーエンドになる予定だったんだよ」
「そうなの?」
「うん。僕としては最高のエンドを持ってきていたんだけど」
「……じゃあ、今晩続きを聞かせて……今日も」
「うん、今日もベッドでお話してあげるよ」
だから早く帰ろうか、と私が引っ張っていた雷人の手を、そのまま今度は彼の方が引っ張った。いつの間にか止めていた歩みを二人して再開させる。
雷人に手を引かれ、家路を急ぐ。
薄氷を踏むような日々の中で、つないだこの手だけが確かな安心の拠り所なのだと私はもうずっと前からきっと知っていた――
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