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後編「雷人」
自分で言うのも何だが、昔から僕、森島雷人という人間は大らかで優しいなどと評されることが多い。
確かに許容範囲は広い方だし、自分にとって余程害にでもならない限り笑って受け流すことができる。
だからあの時も受け容れた。
それは確かに僕と彼女を、家族を、僕らを取り巻く環境を揺るがしかねない出来事ではあったのだけれど――僕にとってみれば害になるどころか得でしかなかったからだ。
「さて、どこから話そうか」
昨晩と同じように薄手のパジャマを着た彼女はベッドの上、寝転がって顔だけをこちらに向けている。僕もまた、ベッドの下のフローリングにクッションを一つ持ってきて座っていた。
どこまで話したところでこの子は眠ってしまったんだっけ、と昨日の記憶をたどっていると、
「デメトリアスとヘレナが死んじゃったところだよ」
彼女が不本意そうな声で助け舟を出してくれた。僕は「そうだったね」と笑う。本当は昨晩全て話し終える気でいたのに、彼女は逃げるように気を失ったのだ。これまではなるようになれば良いだろうと静観してきた僕だが、望んで動いてみれば思うように物事は進まないものだ。できるだけ穏便に事を進めようとしていたのだけどこれはやり方を変えるべきなのかな、と考えつつ、続きを語り始める。
「……デメトリアスと、ヘレナの心が宿ったハーミアはロバの化物のニックに喰い殺されて死んでしまいました。ヘレナの中のハーミアの心は、幼い頃からずっと一緒にいた大切な友達を失くしてしまった悲しみと、ヘレナが自分の身代わりに死んでしまった申し訳なさでいっぱいになりました。どうしたら良いのかわからず、ライサンダーにしがみついたまま動けなくなっていたのですが、いつまでもそうしているわけには行きません。ロバの化物が今度は彼女たちに襲い掛かろうとしていたから……」
「お兄ちゃん!」
彼女ががばりとベッドから起き上がり、悲鳴のような声で遮った。
「……今から残った二人がどうやって無事に「妖精の森」を抜け出すのか話そうとしていたんだけど」
「いい。聞きたくない」
目を閉じ手で両耳を塞ぎ、首をぶんぶんと振って拒絶する。
「そっか」
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