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そこは奇妙な森だった。
十人くらいが手をつないでやっと幹を囲めるような大樹が何本も立っている。幹は鮮やかな色をした草木にびっしりと覆われ樹皮は見えない。それが頭上高くまっすぐと伸びており、紫色の枝が傘のように丸く広がっている。葉は一枚も付いていないので枝と枝の間から眩しいほどの南国の日差しが惜しみなく降り注いでいた。
ギリシャの宮殿の柱のようにどっしりと、姿勢良く、等間隔で並ぶ樹々の内、真ん中の最も大きな樹の下に私と彼女はいた。
二人とも小学生と思われる年頃で、花柄のワンピースに麦わら帽子という格好。ワンピースの方は全くのお揃いだが、帽子の方は同じデザインでも私は赤色、彼女は青色だ。子供の無頓着さで二人とも地面にぺったりと座り込み、暑さを少しでも和らげるためか帽子を目深にかぶっていた。そのため私の視界は極端に狭く、彼女の顔もよく見えない。
彼女が話していることが耳に入ってこない。でも私が発した言葉も私自身には聞こえない。ただ相手がころころ笑っているから、きっと楽しい話をしているんだろうなと推測する。
ひとしきりおしゃべりが終わって彼女が立ち上がる。私がつられるようにして立ち上がったのを確認して、彼女が帽子を取った。その顔を見て、私はぎょっとする。
青い帽子の下から出てきた彼女の顔は、私の顔だった。
笑う彼女と目を見開き固まっている私の間に、夏のじっとりとした空気を切り裂くように海からの少しひんやりとした風が吹く。
そして彼女は言った。
「ねぇ、どうして<私>を殺したの?」
声にならない悲鳴を上げて、私はベッドから身を起こしていた。寝起きのはずなのに目は大きく開き、心臓がうるさいくらいにどきどき言っている。パジャマの下は汗でびっしょりしていた。
「夢……」
口に出してみてやっと実感できて、ほうっと息をつく。
八月。夏休みのある一日の朝。クーラーがタイマーで早朝に切れ、じわじわと室内の気温が上がってきたところ。暑い所で無理をして寝ているとよく悪夢を見るものだが、今回に限って言えばおそらく原因は。
「多分寝る前に聞いたお兄ちゃんの話のせいだよね……」
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