後編「雷人」

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あの日、僕の妹、玲奈はその時二人きりだった未亜に対し「入れ替わり」を提案した。方法は単純。ただ、玲奈がそれまでかぶっていた赤い帽子と未亜がかぶっていた色違いの青い帽子を交換しただけ。 一般的な小学校高学年の少女同士ではあっさりと周囲から見破られただろう。だが玲奈と未亜はそうではなかった。性格こそ正反対だったが、顔立ちは不思議とよく似ていたように思う。決してそっくりというわけではなく顔を突き合わせてよく見れば違いは明らかなのだが、黙ってすましているのを遠目に見たら兄妹である僕と融もどちらがどちらか判断に迷った。それが髪形を同じように肩までの位置で切り揃え、同じワンピースを着て、さらに麦藁帽子を深くかぶって顔を隠していれば、しばらくの間は誰にも気づかれないという可能性は十分にあった。 事実、お互いの帽子を取り換えた二人を僕らの両親はおそらく最後まで気付いてなかった。そうなった原因の一つに森島家も天野家も両親が共働きで、出張や残業も多く、子供達と過ごす時間があまり取れていなかったことがあるだろう。長男であった僕と融はまだしも、玲奈と未亜は特にそうだった。僕ら二組の兄妹は四人寄り添って両親のいない時間を埋めていた。彼女らがあれだけ性格が違うのにそれなりに仲良くやっていたのは、そういった寂しさを共有していたからではないかと今では思う。無論僕らの両親も天野家の両親も家族で一緒に過ごす時間が十分に取れていないことは気にしていて、だからこそ夏休みの旅行は何が何でも実行しようとしていたのだ。
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