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空港で別れる間際、背を向けた妹が融の手を握って僕と、玲奈のふりをした未亜をちらりと振り返り浮かべてみせた、共犯者に対する楽しげな綺麗な笑みを、僕は昨日のことのように思い出せる。それが彼女を見た最後となった。
直接訊ねたことはなかったが、恐らく玲奈は融のことが好きだったのだと思う。やややり過ぎの感が否めない「入れ替わり」のゲームだって、突然の天野家の引っ越しで離れてしまう融と少しでも長く一緒にいたかったから思いついたものだろう。だから不幸な最期を迎えたとはいえ、きっと妹は命を失う直前まで好きな人の傍で幸せであっただろうと思っている。
こんなことを推測できてしまうのは、僕が森島玲奈の兄だからだ。正反対などと周囲から言われていた僕と玲奈だったが、僕自身に言わせてみればなんだかんだよく似た兄妹だった。彼女も僕も同じような思考回路で生きていたと思う。だからこそ当時「好きな人と一緒にいたい」という実に少女めいた妹の作戦に、何も気づかないふりをしてこれ幸いと乗ったわけだし。
「雷人くん……どう、して」
蒼白な顔でそれ以外の言葉を忘れたかのように、僕の名前と「どうして」という言葉を未亜は繰り返す。彼女の僕を見る目は、既に親しい家族を見るそれではない。そのことにどうしようもなく笑みがこぼれてしまう。
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