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……当然のことながら飛行機の墜落事故によって自分以外の家族全員と、親友の玲奈を失ったショックは未亜にとって大きなものだった。「入れ替わり」によって本来は自分が死ぬはずだったのに、代わりに玲奈を殺してしまったという事実もひどく彼女の心を苛んだのだろう。彼女は事故以来、自分の心を守るため自身を森島玲奈と思いこみ、それらしく振る舞うようになった。もともと本来の玲奈とは違い未亜は大人しい性格だったので、玲奈として生きるにはどうしても無理が生じた。少なからずそれまでの玲奈とは違いが現れ、言動に矛盾が出てくる。しかし当時は小学六年生の夏休み。二学期の初めに出てきた「森島玲奈」の変貌に彼女の友人らは驚いたが、長期休暇明けということでなんとなく受け入れられたらしい。僕もまた彼女が過ごしやすいようにと子供なりに考えた結果、「親友を失ったショックで人が変わってしまったみたいだ」なんて尤もらしいことを吹聴し、その流れに加担した。そして小学校を卒業し中学校に入学すればそれまでの彼女の友人関係はばらばらになり、疑問を持つ者もいなくなった。文字通り「天野未亜」は「森島玲奈」に成り変わった。
早いうちに事実が明らかになってしまった方が未亜にとっては幸せだったのかもしれない。だが未亜自身が真実に蓋をしてしまい、当事者以外で真実を知っていた唯一の人間である僕も何も言わなかった。僕は未亜のことが好きだったから。別にこの歪んだ状況も一緒にいられるのなら、それはそれで良かったのだ……ただ、成長していく彼女を見るにつれ物足りなくなってしまっただけで。
「ねぇ、未亜」
兄妹の関係も心地よかったけれど、それだけでは僕は満足できない。妖精の森に入る前と同じ目で、もう一度僕を見てほしい。
ベッドに腰を下ろし、涙で冷え切った彼女の頬にそっと触れる。
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