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家族ぐるみの付き合いで、毎年夏休みに我が家と一緒に家族旅行をしていた一家。兄の天野融(あまのとおる)は雷人と同い年、そして妹の天野未亜(あまのみあ)は私と同い年だった。特に未亜の方はおとなしい性格にも関わらず活発だと言われている私と気が合い、本当の姉妹かと間違われるくらいに仲が良かったのだという。それだけに飛行機事故で天野家全員が命を落としたことは、私にとって大きなショックだった。シンガポールから日本に戻って来て空港で私たち一家と別れ、直前に決まった引っ越し先へと向かうために乗り込んだ国内線の便が悪天候による着陸失敗で墜落したのだという。乗客のほとんどが助からず、当時は報道で大きく取り上げられた。次々入ってくる悲劇的なニュースの中で未亜の死が判明してから、普段の勝気な様子はどこへやら、酷く弱気になって一週間は寝込んだらしい。
伝聞や推測が多いのは私自身があまりよく覚えていないからだ。戸惑った顔をする私に母は「子供心にショックだったんでしょう。それをやり過ごすために、なるべく忘れようとしたのかしらね」と取りなした。
雷人もこのことを知っていたはずだが、私に話したことは一度も無い。私を気遣ってあえて話さなかったのだろうか。雷人に聞いておきたかった。
ずっと忘れていた癖に今更こんなに気にしてしまうのは、毎年夏が来る度に悩まされる不眠の原因がこれであろうと気付いたからだ。記憶自体は封じ込めていても、知らず知らずの内に心を苛んでいたのかもしれない。雷人はそれに気づいていたから、何も言わずベッドの私に寄り添い寝物語をしてくれていたのだろうか。
図書館に着くと、閉館十分前を知らせるメロディーが流れているところだった。退館しようと入口に向かう利用客の流れとは反対に、雷人がいつも利用しているデスクスタンドが備え付けられた窓際の席に向かう。予想通り、雷人は一心に机に向かっており時間ぎりぎりまで問題を解こうとしているようだった。
「お兄ちゃん」
だが、私が声をかけるとぱっと顔を上げにっこり笑う。
「どうしたの」
「部活が思ったより早く終わったから、一緒に帰ろうかと思って」
なんとなく照れくさくてぼそぼそ答える私に、雷人は
「わざわざ寄ってくれたんだね、ありがとう」
とひどく嬉しそうにするので、二人きりの時を狙ってあれこれ聞き出そうとしていた私は居心地悪くなってしまう。
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