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「じゃあ、本を返して帰り支度をするから入口の所で待っててくれる?」
雷人の机には参考書やワークの他に館内の棚から取って来たのであろう、課題には何の関係も無さそうな文庫本が何冊か置かれていた。きっと勉強の合間に息抜きに読んでいたものだろう。こういうことができるから、雷人は勉強には学校の学習室より好んで図書館の方を利用していた。
「わかった」
一つうなずき、来た所を一人戻っていると見知った顔を見つけた。
「春ちゃん」
入口に一番近い所にある閲覧席に座って本を読んでいたのは、クラスメイトだった。休み時間は誰とも遊ばず本を読んでばかりいる一匹狼な彼女は特別仲が良いというわけでもないが、会えば挨拶くらいはする。
「玲奈ちゃん、珍しいね。図書館で会うなんて」
本から顔を上げて彼女がにこ、と笑う。
「うん、お兄ちゃんがここで勉強してたから部活帰りに拾って行こうかと思って」
「へえ、仲良いんだね」
「……そうかな?」
「そうだよ。うちの妹なんか一緒に帰るのも嫌がりそうだし、「夏休みなのに図書館で一人で本ばっかり読んでるなんて寂しい人だね」とか毒を吐きかねない」
「手厳しい妹さんだね」
「まったくだよ……ところで、気のせいかもしれないけど。玲奈ちゃん、もしかしてお疲れ気味?調子が悪い?」
なんでもない雑談の流れでいきなり不調を言い当てられて、無防備になってしまった。取り繕うこともできず、
「そう、見える?」
と聞き返してしまう。
「うん。玲奈ちゃんにしては普段より言動が気だるげと言うか」
「大丈夫?」と訊ねてくる彼女に対し、まさか「飛行機事故で死んだ友達のことが気になって」なんて話をするわけにもいかないので、
「うん、ちょっと寝不足気味で……」
と当たり障りのないところを答える。別に嘘ではない。
「ああ、ここのところ毎日暑くて寝苦しいもんね」
「そうだよね。眠れても変な夢を見るし……お兄ちゃんが変な話するから」
「変な夢と……変な話?」
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