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春ちゃんが首をかしげる。夢のことは雷人以外の誰に言うつもりもなかったのに、確かに疲れ気味なのか、つい余計なことを口走ってしまったと反省する。春ちゃんの興味を引かれたような様子に、私は仕方なく彼女の向かいの席に座り話し込む態勢を取った。どうせ雷人は本を棚に戻しに行くと言って、ついでに借りる本を探したりしてもう少し時間がかかるだろう。仕方なく、と自分に言い訳してはみたものの、私自身良い加減誰かに話してしまいたかったのかもしれなかった。春ちゃんは普段話しかけづらいタイプではあるものの、話しかけられればできるだけ真摯に応えようとし、どんなことを言っても笑ったりしないだろうとわかっている。
「夢の中で私が変な森の中にいるのよ。「変」っていうのは、出てくる植物が図鑑にも載っていないようなものばかりなの」
私は大まかに昨晩の夢を説明する。紫の骨だけの傘のような大樹の森。眩い日差しと南国の湿度。その中に佇む私と、もう一人の私。そして彼女が言った言葉。
――どうして<私>を殺したの?
「なんか、意味深な夢だねぇ……」
春ちゃんが腕組みをしてううん、と唸る。
「深層心理とか反映してるのかね?全然専門じゃないけど」
「フロイトでも読んでみる?」とどうにか捻り出したらしいアドバイスに、私は苦笑いして否定する。
「いや、そんな難しい話じゃないと思うんだ。というのも寝る前にお兄ちゃんが話してくれた話がまさにそんな舞台なの。多分その話が多少アレンジされて夢に出てきたってだけじゃないかな」
「ああ、お兄ちゃんが変な話をしたって言ってたんだったね。それってどんななの?」
尤もな質問をする春ちゃん。私は「寝つきが悪いから眠くなるまで兄に物語を話してもらってます」なんてことは伏せて、「お兄ちゃん、いろいろお話を作るのが趣味みたいなところがあって、よく聞かせてくるの」とだけ簡単な前説明を入れて、彼の話を思い出しつつ話した。
――とある町にデメトリアスとライサンダー、ハーミアとヘレナという小さい頃からずっと一緒にいる、たいそう仲の良い男女がおりました。彼らのお決まりの遊び場は郊外にある「妖精の森」。そこはその名の通り、妖精たちが住むという魔法の森。天高く傘を差したような大樹が整然と並ぶ、不思議の森。
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