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俺たちが世話になっているシェアハウスの管理人はアルカードと名乗る病弱そうな青年だ。彼に限らず、緑に囲まれひっそりと建つ白い洋館に住む者は皆、俺達とは距離を取りほとんど交流がない。だが、気配からすると四、五人はいるようだ。
考えながら歩いていると家に着いた。玄関先であいつとアルカードが話しているのが見える。俺とは違う上品な紙に包まれた形の良い物を手渡していた。なんとなくモヤモヤした気分になって、二人の横を早足で通り抜ける。アルカードが声をかけたが無視して自分の部屋に入った。あいつの怒った声もしたが今は聞きたくなかった。
魔界一の貴族シュヴァルツ家の第一王子、ラスター・シュヴァルツは困惑していた。なんだこの感情は。そして、さっき渡された小さな包を取り出すと思った。貰ったのは初めての事だったので分からないが、これが義理と本命の違いなのかと。
リボンをほどき、中身を確認すると茶色い塊が出てきた。たぶん、トリュフだ。不格好 でちょっと大きめだが。口に放り込むとそれは甘いのに苦かった。
魔界に帰れないとわかった時、私は何も考えられない 状態だった。こんな事になるなら大人しくアイツと結婚してればよかった。まだ十六歳だし、やりたい事もたくさんある。顔すら知らない相手と結婚なんて嫌とは思ったが、家出した事は後悔していた。
でも、アイツが追いかけて来たから落ち込んでいる暇はなくなった。「俺を拒絶する女がいるのが許せない」という理由はアレだけど、私を追って来てくれた事に変わりはない。アイツは社交界で見かける私よりも魔界の上流貴族であるヴァイス家の財産にしか興味がない王子達とは違っていた。人間界の行事や作法にも詳しくて、意地悪な言い方ではあるけれど私が失敗した時にはさりげなくフォローしてくれる。
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