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『フロイデ様、とても言いにくい事ですが』
自分の部屋に帰って少し考え込んでいたところにシュネルがフサフサの耳と尻尾を下げて話しかけてきた。小型犬くらいの見かけだが、彼はフェンリル狼の血を引くフロイデの従者である。
『人間界では、手作りのチョコは本命の殿方に贈る物らしいですよ』
「え?そういう事は始めに教えてよ。アイツに勘違いされてたらどうしよう。明日は会いたくないよぉ~」
顔を真っ赤にしてジタバタしている主人を見てシュネルは溜息をもらした。
「お世話になってるお礼だそうです。手作りしたかったけど、材料が足りなくなったんだそうですよ」
薄暗く殺風景な管理人室でアルカードはフロイデから受け取ったチョコレートを住人に振舞っていた。
「狼には毒でしかないな」
細身だが引き締まった体格の青年がボソリと言う。
「猫にも毒だねぇ」
暗闇でもギラリと光る目を持つ老婆が続く。
「人間の食べ物に興味はない。それに、義理だとしても愛の証など必要ない」
と、全身黒ずくめの服装でフードで顔が見えない男が言うと、アルカードは薄く笑った。
「ワタシも愛の証には興味ないですよ。ただ、王子は警戒してるようですが、姫はワタシを信用している。利用できるものは大事にしたい。そして、骨の髄までワタシの役に立ってもらうのです。貴族達に魔界を追放された積年の恨みが晴らせる絶好のチャンスですからね」
それを見た老婆が呆れたように笑う。
「愛の証をくれた者を利用するのかい。酷い男だねぇ」
「そんな事はありませんよ。ワタシは純真で無知な彼女を愛おしく思ってます。だからこそ全てを奪いたいのです」
目を細めて笑うと、アルカードはチョコレートの箱を開ける事なく暗闇の奥へ持って行った。
「しかし、誰もいらないようなので、この子に食べてもらおう」
不定形な黒い塊の上に箱ごと投げ落とすと、それはグシャグシャと不快な音と動きで跡形もなく消してしまった。
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