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今年の牡丹は良い牡丹
この地方で、やたらと唄われるわらべうたがあった。けれどそれは、そこの地域の藤原家、松本家、そして渡来家では唄われない唄だった。
雷堂瞳は、そのことを、藤原家を実家に持つ母から聞いていた。
「せーちゃんも萌絵奈も知らないんだよね、この唄」
瞳が幼馴染の二人に訊くと、
「知ってるわよ!」
と、松本萌絵奈は言い返してくる。
「俺も聞いたことくらいはあるよ」
と渡来聖司は言ったが、幼い頃は二人とも知らなかったのだろう。聖司は二つ上で、萌絵奈は瞳と同級だったが、三人でこの唄を唄いながら遊んだ覚えは無い。
そう言うと萌絵奈は、「じゃあ瞳が知らない話をしてあげる。あの山の中にある神社には行ったことないでしょ」と言って、瞳たち三人の故郷の話と、それにまつわる萌絵奈の祖母、ヘキの話を始めた。
居酒屋で集まっていた他の社会人サークルメンバーも、萌絵奈の話に聞き耳を立てた。
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