オープニング

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 日も暮れ切った大都会のど真ん中。高々とそびえ立つビル群の中の一つに高級で知られているホテルがあった。窓から明かりが漏れる部屋は宿泊客がいる部屋で、逆に明かりが漏れていない部屋は宿泊客がいないか既に就寝している部屋。ビルの外から見てわかるのはそれくらいのものだ。  ビル一階の入り口には二十四時間人がいて、フロントも二十四時間稼働している。防犯用の監視カメラは数多く設置されており、有名人の宿泊ともなればSP用の部屋も用意できる。警備も十分、SPの同行も許可、防犯用監視カメラも十分、従業員は二十四時間体制。不審者が足を踏み入れることができる余地などありはしない。  そんなホテルのほぼ最上階。広く豪華な部屋は窓からは明かりが漏れている。それだけでその部屋には宿泊客がいることがわかる。しかしその部屋に誰が宿泊しているかは外部の者には誰にもわからない。ホテルの人間が守秘義務として情報の漏えいを防ぐことを徹底しているためだ。そのためその誰が宿泊しているかがわからない不確かさもまた、このホテルの防犯レベルの向上に一役買っているのだった。  しかし、それが必ずしも完全完璧に宿泊者の身を守ってくれるとは限らない。 「お、お前は誰だ?」  豪華な部屋に宿泊する一人の中年の男性。いいものを食べて肥えて太った腹とたるみ切った顔。動くたびにふるえる二の腕や足の肉。不摂生の塊のような体を部屋備え付けのバスローブに包んだ姿で、彼は尻餅をついて何かにおびえながら両手両足を必死にばたつかせて後退していく。
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