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まず、アトリエが向かったのは現在地から一番近い二人目の被害者、四十代女性の大学院助教授のマンションだ。
「いいマンションに住んでいて、羨ましいなぁ」
マンションの管理人に日暮探偵事務所の職員証を提示して鍵を借り、そのまま事件現場と思われる被害者の部屋へと向かった。鍵のかかった扉を開錠して一気に開く。
「・・・?」
その時、何となく違和感に足を止めたアトリエ。空気が少し淀んでいるといえばいいのだろうか。だがそれはあまりにも微細な違和感。例えるならば成分がほぼ同じのミネラルウォーターを飲み比べて違和感があるような気がする、という程度のものだ。
「気のせいかな?」
その違和感も扉を開いたことにより空気の入れ替えが行われてしまえば、もう感じ取ることはできなくなっていた。ただ密閉されて放置していた時間が長かったことや、元々この部屋にいた人の生活臭が原因ではないかと思い、アトリエはそれほど今の違和感を気にすることなく部屋の調査を始めた。
「四十代女性で大学院助教授。バツイチで子供なし。でも最近は大学関係で親しい異性がいたようで、発見者は被害者と親しい男性が訪ねて来た時」
頭に入っている情報を部屋の調査を行いながら口にして状況を再確認する。遺体の発見場所からその時の状況を保護してある室内を見渡していく。
「あれ? これ・・・」
薬品関係の研究を行っていたのだろう。研究で使用されるのであろう資料や薬品の本が並べられる一方、関連する製薬会社や薬品会社のパンフレットや資料などもたくさん発見できた。その中に、保健所で手に入れた変な会社の名前も発見することができた。
「うーん、なんだか結構テンポ良く進めている気がするね」
保健所で手に入れた情報と現場で見つけた情報。その二つが今のところは結びついている。それは少なからず関係があるということに他ならない。
「他にめぼしい情報らしいものは無いかな?」
部屋中を見渡すが目に留まるものはない。だが、這い蹲って様々なところを見渡していると、再び匂いに気がとられる。
「また?」
匂いの元を探して部屋の中を動き回る。するとそれは客が来た時に応接する部屋の床から僅かに嗅ぎ取ることができた。
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