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「ふーん、なるほどねぇ」
話したのは鳩や野良犬の大量死、三人の被害者、一致しない来客といったもの。
「解決まで程遠いわね」
革新的なものが何一つないのは事実だ。アトリエは安里結の指摘に頷く。アトリエだけがわかる確信では意味が無いのだ。
「まぁ、事件のあらましはわかったわ」
興味はあるが自分には関係ないという一線を引いた淡白さが安里結から感じられる。
「それよりあなたの体の方は大丈夫なのかしら?」
先ほどまでのふざけた様子や興味本位という雰囲気から一変して真剣な眼差しがアトリエに向けられる。
「相変わらずです。先生こそ、治療法は見つかりましたか?」
アトリエの言葉には何かにすがるような気持ちが見え隠れする。
「あのねぇ、こっちだってあなたのことを考えて慎重に行動しているのよ。一生日の当たらない研究室の奥でモルモットなんて嫌でしょ?」
「あ、はい・・・」
「情報が漏れないように信用できる知り合いだけでやっているんだから、そんなに結果を急がないでくれる?」
「わかりました」
アトリエの元気さが失われる。彼女にとって重要な何かを彼女自身は安里結に託しているようだ。
「まぁ、そんなに気を落とさないことね。他人にできないことができるというのは使い方によってはいいことよ。善意で使えばそれは多くの人を助ける力になるわ」
「そう、ですね」
一度、アトリエは深くうつむいて一つ呼吸を置く。何かを考えているようにも、無心になっているようにも、さらには何かを悔いているようにも見える。だが、すぐに顔が上がる。その時の彼女は普段通りの元気を取り戻していた。
「今の私にしかできないこと、それを頑張ります」
心からの笑顔だろう。アトリエの可愛らしい童顔が屈託のない表情を見せている。
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