亜人の少女と事件解決

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 手に入れた情報とたどり着いた仮説をメールにして所長へと報告する。しかし、それらはあくまでも仮説。筋は通っていても真実であるとは現段階では言えない。そう、最も必要なそれら仮説を確定づける証拠が一切ないのだ。 「・・・~♪」  だが、アトリエはそれでも明るく物事を考えている。  もし証拠があるとすれば犯人がそれを持っていることだろう。警察の追及も受けず、今の今まで隠れ通している犯人は証拠を処分しなければならない状況に差し迫っていない。なら十中八九、犯人の懐に飛び込めば証拠が見つかることだろう。 「んー・・・ビンゴ!」  港にある目的地の倉庫を視界に収めた時、海からの向い風がアトリエの鼻をくすぐる。そこには今まで各所でほんの僅かだった匂いがしっかりと風に乗ってやってくる。それは吹き抜ける風がここに犯人がいる、と教えてくれているようにも感じ取れる。 「自然はあなたの暴挙を許さない。土は証拠を集め、草木はそれを守った。風はその場所を示してくれている。大都会で発展して磨き上げられた科学技術も自然という世界の掌の上にあるに過ぎないもの。人がそれを見つけられなくても・・・」  アトリエの足は倉庫へと向かう。強く、コンクリートで固められた地面を踏みしめる。 「・・・世界はそれを許しはしない。そして私もそれを見逃さない」  港に建てられた倉庫。大きく、どれだけの荷物が入るのか想像もつかない。そんな倉庫の扉は固く閉ざされている。だが、アトリエの第六感は中にいる人の気配を感じ取っている。そして何よりも風に乗って吹き抜ける匂いが実に心を不愉快にさせる。その思いがアトリエを突き動かし、固く閉ざされた倉庫の扉を力一杯開いて中へと足を踏み入れる。  倉庫の中ではたくさんの荷物が積み上げられている。見たこともない数字やアルファベットの羅列がその荷物の名前なのかシリアルナンバーなのかすらわからない。そして奥の方へ行けば動物が捕えられていたであろう檻がいくつも見える。だが、今ではすべて空っぽ。倉庫の中は静寂に包まれており、物音はしない。 「だ・・・誰だっ!」  さらに足を進めるとそこには一人の人影が見える。薄汚れた白衣を身に纏った男性。細く痩せた体と眼鏡、そしてぼさぼさの髪は確かに被害者宅を訪れたオタク風の男性といっても差し支えない。
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