亜人の少女と事件解決

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「そこまでです。もう逃げきれませんよ」  アトリエは男と距離を取って立つ。男の背後にはいくつもの机が置かれており、資料や研究道具のフラスコや薬瓶なども置かれている。 「私は日暮探偵事務所所長、日暮園の助手、安登梨絵です」 「日暮・・・探偵事務所・・・」  犯人の男は一歩後退する。それもそのはずだ。研究一筋の男も犯行を犯せばまず間違いなく世間の情報を手に入れようとメディアを頼る。そこでは有名な男が常にお茶の間を賑わせているのだ。その男の名が出れば大抵の犯人は己の逃亡を諦めるという。 「ふっ・・・ははっ・・・」  しかし、犯人が逃げ切る準備を周到に用意していた場合、または証拠が絶対にあえりえないと犯人自身が確信しているとき、彼らは力ではなく頭と言葉で抵抗を試みる。 「有名人の助手の方が一体こんなさびれた倉庫に何の用ですか?」  そしてこの男もまた、証拠が残っていないということを確信している。 「ここ最近で起こった三つの殺人事件、その犯人はあなたです。大人しく自首をするならそれで構いませんが、抵抗したり逃亡したりするとなるとさらに罪が重くなりますよ」 「これはこれは………いったい何を言っているのかさっぱりわからない。僕はただこの倉庫を借り切って薬品の研究をしているだけですよ。そういう会社に勤めているからね」  犯人は眼鏡を指でクイっと一度持ち上げる。何がどう転んでも彼は負けることが無いと確信しているのだ。 「それとも何か証拠でもあるんですか? だったら見せてくださいよ。僕がその殺人事件の犯人だという証拠を・・・ねぇ」  勝ち誇った気味の悪い笑み。当然だ。それは犯人だけでなくアトリエも警察も同じ思いなのだ。物的証拠は何一つない。目の前の男を言論で屈服させることは不可能なのだ。
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