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「・・・匂うよ」
だが、それは通常の攻め手を行った場合の話。彼女の切り口はまるで違う。
「ん? 匂う?」
「うん。すごく匂うよ。三人が殺された現場と鳩が大量に死んでいた公園、そしてこの倉庫。まったく同じ匂いがするの」
一瞬の静寂。しかし、その静寂は男の笑い声によって破られる。
「はははははっ! 何を言い出すかと思えば、匂う? バカバカしい。僕が今研究している薬品は無色透明無味無臭なんだよ。警察犬だって気付かないんだよ。それを人間の君が匂う? 犬の鼻でさえ捉えられなかった匂いを? 馬鹿げている!」
男は自信満々に言い放つ。そう、これこそが犯人の強み。警察犬でさえかぎ分けることのできない無色透明無味無臭の薬品。まさに完璧な殺人道具だ。
「どうして警察犬が気付かなかったって言えるの?」
「・・・は?」
大声で笑っていた男の表情が一瞬強張る。
「別に普通に犬の鼻って言えばいいよね? それをどうしてわざわざ警察犬って言う必要があるの? 警察犬ってあなたのような一般人が関われるような犬とは違うと思うけど?」
傲慢な自信は自らの首を絞める。アトリエは男の発言にそう思った。
「なに、警察犬と触れ合えるイベントがあってね。僕はそのイベントに参加したことがあったんだよ。何か問題でも?」
「別に? そんなイベントに研究中の薬品を持って行けるくらいこの会社の管理のガードが甘いのかと気になっただけだけど?」
アトリエはニコッと笑う。その笑みはこれ以上ない挑発だ。
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