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「き、君は・・・突然変異体か何か・・・なのか?」
研究員魂なのだろうか。恐怖心と好奇心が入り混じった震える声で犯人の男はアトリエに問いかける。
「わからないの。何もわからない。でも私は普通でいたい。だから私の体のことは公にされていない。ごく少数の人に少しずつ調べてもらっているけど、公にするといろんな研究所がこぞってやって来てモルモットにされるからって隠しながら少しずつ・・・」
アトリエは胸の内に秘めていた想いが無意識に口を割って飛び出していく。
「す、すごい! まさか生きている間にこんなものに出会えるなんて・・・」
犯人の男は自らの薬に対して耐性を持つアトリエに興味津々だった。尻餅をついていた男性は立ち上がり、落ち込むアトリエの様子とは正反対に感情が高揚しているようだ。
「いける。いけるぞ。この素体があれば僕は再び中央の研究所に戻れる。そうだ、僕は天才研究員だ。この素体さえあれば僕は・・・」
男の邪な思いもまた、口を割って飛び出してくる。
「・・・盛り上がっているところ悪いけど、私は自分の体をあなたに触れさせる気は全くないよ」
男の高揚した思いとは真逆に、アトリエは男が自らの体に関することを拒む。
「な、何故だ! 僕は天才だぞ! 僕なら君の体の全てを解明できる!」
「その天才っていう自己評価を棚に上げて、三人もの人を殺したんだよ。私にとってそれは認められない悪。だから、そんな人には私の体は預けたくない」
自らの欲望や恨みにより起こした三件の殺人事件。警察が完全な証拠をもってここに来るのがいつになるかはわからないし、彼が開発した新薬による毒殺が立証できるかどうかもまだわからない。けれどもそれは事実として存在する。故に、アトリエにとって彼は悪以外の何ものでもない。そんな人間を信用することができるかと問われれば、ごく当たり前にみんな首を横に振ることだろう。
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