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アトリエの拒絶を聞いた男の表情は暗い。引きつり、絶望感さえ漂っている。彼にとって生きている一番の理由は、自らの頭脳を生かした研究による成果を出し、その成果を人々から称賛されること。それこそが彼の生きる理由である。今、目の前に最も研究意欲をそそる存在がいるにもかかわらず、その研究に携わることができない。それは男にとってこれ以上ない地獄であった。
「・・・もし・・・私の体について研究がしたいというのなら・・・ちゃんと罪を償うことをお勧めするよ。そしたら・・・私の気も変わるかもしれない」
アトリエは最大限の譲歩ともいえる言葉を男にかける。絶望の淵にいた男はこのまま放っておけば自殺すらしかねない。殺人犯だと知られ、研究の継続は難しくなり、それでいて自らの生きる意味さえも失われた。そんな状態で男が生きて居られるはずがない。よってそこに僅かな望みをアトリエは投げかけることにした。それは本当にわずかな希望だ。一人殺せば重罪、二人殺せば死刑と言われる刑法の世界において、三人を殺したことに変わりはない。しかしそれでも、アトリエの言葉に男は少しだけ生きる望みを見つけ出すことができたのか、絶望の淵にいた表情はわずかに血の気が戻りつつあった。
「・・・パトカーの音が聞こえるね」
静寂に包まれた港の倉庫。そこにパトカーのサイレンの音が届く。もう近くまで警察が来ていることは間違いない。
「研究資料に新薬、ここにはたくさん証拠があるね」
「・・・そうだな」
男は観念したのか、証拠隠滅を図ろうとする様子もなく、ただ茫然と自らの研究所を見ながら立ち尽くしていた。
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